2012年11月23日金曜日

なぜ上演するのか




いよいよ1年半ぶりの公演の稽古が始まった。
今回の上演作品は『エレベーターの鍵』である。
小説「悪童日記」で有名なアゴタ・クリストフが1977年に書いた
戯曲を、のちに本人がさらに手を加えて完成度を高めた作品である。
 
この作品を上演しようと考えたのは、今から1年以上の前のことだ。
これまで進めてきたプロジェクトとは異なった、演劇的な試みを
行いたいと思って上演を決めた。
 
上演が決まってから、さまざまな人たちから、
「アゴタ・クリストフが好きなのですね」と言われた。
そのような反応を聞くたびに違和感を覚えるのだが
演出家が、その作家の作品を上演するのは、
それがいま上演する意味があるかということと、
上演できる構造を持っているかということと、
演出家の考える上演に耐えられるかということが問題であって、
その作家を好きかどうかということはあまり関係ない。
むしろ敵対できるだけの強度を持っているかが問われる。
 
今回の『エレベーターの鍵』は、いまの日本で上演する意味のある
作品であり、上演できるだけの劇的構造を持っていて、演出プランの
実行に耐えられるだけの強度も兼ね備えたテキストであると思う。
池の下では、今後もさらに戦いがいのあるテキストを使って、
新たな演劇の可能性を探求していくつもりだ。